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蒼剣のジュド
ニュークラント平原を望む台地には今宵無数の明かりが灯り、独特のピリピリ
とした空気が漂っている。
それはそうだろう。明日は日の出とともに、向こう側のナグ・シン第三王朝との戦いが始まるのだから。
まあ、勝者が第三王朝だろうがトーユルク帝国だろうが、自分には本質的にはどうでもいい、と傭兵であるユタクは大欠伸をした。
腰に昔戦場の死体から剥ぎ取った剣を佩き、寝る前にぶらっと陣の中をそぞろ歩く。戦の前にする癖だった。顔ぶれを見て明日の吉凶を占うのだ。
勝敗はどうでもよくても命は可愛い。
「お、今度もいやがる」
風見鶏みたいに勝つ側につくのが鉄則の傭兵の中で、いつもトーユルク帝国から出陣する奴を一人知っている。もう何度も敵・味方になって戦った。毎度彼を探すのがほんの少し楽しみになりつつある。
それは奴が味方の時は勝ち戦であることが多い、という意味においても。
「やっぱあんただったんだな、蒼剣のジュド」
呼ばれた男が焚火からわずかに顔を上げてこちらを見る。
時が止まったような瞳。螺子がさび付いてとまっちまった時計みたいだ。
けれどその奥で熾火のように燃え続ける意志。
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