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第十三話 シンデレラ取材チーム
「ん?君は?」
「あたしは北郷穂香って言います。高校生です。こちらのお姉さんがこのあたりに不案内だって言うんで、ここまで連れてきたんです」
「おお、すると君はこの時代の……いや、この辺りの地元民だね?ううむ、星冲君、異なる時空で早くも友人をこしらえるとは実に優秀なロケハンスタッフだ」
「……ロケハンスタッフ?」
独自の用語を駆使する人物の登場に穂香が目を丸くすると、由仁は「申し遅れました、僕は漫画家をやっている鵡川由仁という者です。分けあって遠いところからこの場所へ取材旅行に来ているのです」と回りくどい自己紹介を始めた。
「あ、じゃああなたがお姉さんが言ってた漫画家の先生なんですね?遠くからって言ってましたけど、東京かどこか?」
「いや、もっとずっと遠くです。実を言うと僕らは未来人なんです」
「未来人?」
「――先生!」
私は人差し指を口に当て「しっ」というサインを作った。まったくリスクがどうとか言ってる割に、自分はというとまるで危機感に乏しいらしい。
「そうか、迂闊だったよ星冲君。うっかりこの時代で存在感が増してしまったら、あっちの僕が「消えて」しまうかもしれないね。警告してくれて助かったよ」
「あのう……さっきから難しそうな話をされてますすけど、何の話です?」
「つまりですね、僕らはできるだけこの時代における存在を「確定」させないよう努力しなければならないんです。少なくとも二時間は」
「二時間?」
穂香が怪訝そうに首を傾げた瞬間、由仁がはっとしたように「そうだ!」と叫んだ。
「星冲君、僕らがこの時代に来てから、どのくらい経過した?あと何分、残ってる?」
「ええと、一時間四十五分経ったから、残りはあと十五分です」
「――十五分だって?……こうしちゃいられない。できるだけ「離陸」しやすいロケーションに移動しなければ!」
「……どういうことです?」
「出現した場所と似通ったレイアウトの場所から飛んだ方が、安定した帰還ができるってことだよ。……ううむ、どこかこの近くにテーブル型のゲーム機はないかな」
「……テーブル型のゲームって、インベーダーの事?それならこの先の喫茶店にありますよ」
「……しめた、そこだ!さっそく案内してくれたまえ、時間が無いんだ」
「はあ……」
私たちは穂香を先頭に近くの繁華街に移動すると、小さなゲーム喫茶のドアを潜った。
「おお、おあつらえ向きの機体がある。星冲君も、僕の向かいの椅子に座りたまえ」
由仁は快哉を叫ぶと、オーダーを取りに来た店員が奇異な目を向けるのにも構わずテーブルの前に陣取った。私は言われた通り向かい側に腰を据えると、いぶかしげな目をしている穂香に「穂香さん、色々ありがとう。今、私たちが突然、あなたの目の前から消え失せても驚かないでね」と釘を刺した。
「消える……って、どういうこと?」
「わけは無事に向こうに帰ることができて、その上でここにまた来ることがあれば説明するわ。……先生、もう一分しかない!」
「むっ、テーブルに手を置いて思考を空白にするんだ。……「力」に引っ張られるぞ!」
私が言われた通りテーブルの上に両手を置いた、その時だった。目の前から全ての風景が消え失せたかと思うと、謎の力が有無を言わせぬ勢いで私を元の世界に連れ戻そうとするのを感じた。
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