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第七話 あなたに会えなくて
私の意識を土から抜かれる大根のようにすぽんと外に引っ張り出したのは、「ちょっとあんた大丈夫?」という女性の声だった。
顔を上げた私の目に映ったのは、赤いジャンパーにチェックのスカートといういでたちの若い女の子だった。
「あ、もしかして眠っただけ?ごめん、起こしちゃったか」
女の子はすまなそうにそう言うと、ぺろっと舌を出した。私より一回りくらい年下に見えるが、なんだか妙に大人びた感じのする子だった。
「でもさ、ここで寝ちゃうとゲームをしに来るお客さんが困るから、どっかに動いた方がいいよ」
ふっくらした頬と厚めの唇がチャーミングな女の子は、初対面の私にも物怖じすることなくそう言い放った。
――人懐っこい子だな。……でもなんか、変な感じ。今時こんな女の子、いる?
女の子の外見は一言で言うとレトロな可愛らしさ、という感じだった。セミロングの髪にパーマでぐいんと段をつけ、左右に流したヴォリュームのある髪型は昔のアイドルや映画女優を思わせ、私の目にはとても新鮮だった。
――それにしてもここは、どこだろう。
あたりを見回した私は、先ほどまでいた『間違った昭和』とはあまりにも違う眺めにひたすら困惑した。私が目を覚ました場所は女の子同様、レトロ感あふれる空間だった。
テーブル型のゲーム機が並ぶさまは由仁の店と同じだったが、周りを囲んでいたのは赤いスェードの椅子や安っぽい照明と言った『正しい昭和』感あふれるレイアウトだった。
――なんだろうここ……レトロゲームファンが集まる喫茶店かな?
私が椅子から立ちあがると、女の子が「お姉さん、なんかすごく垢抜けた服だね。化粧も決まってるし、芸能人みたい」
「私が?……これ普段着だし、メイクもちょっとしかしてないけど」
「ふうん、そう?……ま、いっか。時間ある?少し外で話そうよ」
女の子はそう言うと、私を電子音と煙草の煙が充満するレトロ喫茶の外へと連れ出した。
外の歩道に出た私は、何気なく道を歩いている人々を見て思わず「え?」と目を瞠った。
私を起こした女の子と似たような雰囲気の子が、街のあちこちに見受けられたからだ。
――もしかして私、本当に1979年に来ちゃったの?
由仁から聞いた『不確定なんとか』を思いだした瞬間、私は衝撃のあまり足元が震え出すのを感じた。
――そうだ、先生を見つけなきゃ。でないと元の時代に戻れない!
私はパニックに陥りながら、素早く考えを巡らせた。由仁の話が本当ならここでぼーっとしていても、二時間たてば元の場所に戻れるはずだ。でももし「不具合」が起きてしまったら――
私は怖気を感じ、両腕を掻き抱くと身体をぶるっと震わせた。何としても二時間以内に由仁を見つけて確実に帰る方法を聞き出さないと「こっち」か「あっち」、どちらかの私が――最悪の場合、両方の「私」が消滅してしまうかもしれないのだ。
「あの、さっき起こして貰った時、私の近くに中年の男の人がいなかった?」
私は図々しいと思いつつ、出会ったばかりの女の子にそう尋ねた。
「男の人?……さあ、見なかったけど。……ね、それよりその服、どこで買ったか教えてくれない?化粧品も」
女の子は大きなウェーブの髪をふわふわ揺らしながら、私にぐいぐい迫った。もちろん私としてもこんなコーディネートでいいのなら、すぐにでも教えてあげたいところだ。
――私が制限時間付きの旅人じゃなく、服を売っている店がこの時代にあれば……だが。
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