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3.第2の事件
アンゴラのマフラー事件から数日後、第2の事件が起きた。
「確かに、置いてあったのよねぇ」
「ホント? いつの間にか食べちゃったんじゃないの、ママ」
「失礼な子ねぇ。離れていたのは、ほんの5分くらいなのよ?」
食事の時間になったので食堂へ行くと、姫様と彼女の母上が深刻な顔をしている。どうやら、テーブルの上にあった菓子が無くなったというのだ。
「うーん……」
件のテーブルの近くで立ち止まった俺に、姫様がチラリと視線を送る。また疑われたのかと、思わずブンブンと首を振れば、彼女は苦笑いで頷いた。
城内で、何かが無くなる事件は、その後も度々起こった。
大抵は、テーブルの上に置きっ放しにしていた菓子や果物だったが、時々変わったものも室内から消えた。例えば、洗い立ての母上の毛糸の靴下や、姫様の甘い香りが付いたハンドタオルだ。
「まさか、泥棒かしら」
購入したばかりのフカフカのクッションが、3個から2個に減った時、姫様がついに外部からの侵入者の存在を疑った。気の優しい彼女にしては、勇敢な判断だ。つまりは、薄々察していたものの、恐怖の余り否定していたに違いない。人は、認めたくないことは口にしないものだ。
「ナイト、貴方、怪しい人を見なかった?」
俺が食事を終えるのを待って、姫様は問いかけてきた。
「残念ながら」
口元を拭い姿勢を正すと、椅子に座る彼女を真っ直ぐに見上げる。
「そうよねぇ。一体、誰の仕業なのかしら」
「姫様。一応、ホシの目処は付いてるんですがね」
巧妙なことに、侵入者は、俺が監視所を離れて城内を巡回している時を狙って、忍び込んでいるようだ。恐らくは、夜間。住民が寝静まった頃合いを見計らって、大胆な犯行に及んでいる。
「もし犯人を見つけたら――ただではおかないんだけど」
「分かりました。俺が、必ずや引っ捕らえて、御前にお連れしましょう」
俺は、彼女の足元にひれ伏すと、固く誓った。
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