4.出会い

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4.出会い

 今から5年前の夏のことだ。  まだ若造だった俺は、当時縄張りにしていた繁華街で抗争に巻き込まれ、瀕死の状態で河原まで逃げた。浅瀬で、しこたま水を飲み、砂利の上にひっくり返った。見上げた星空が白み、徐々に空に色が付いていくのを眺めながら、ここで太陽に焼かれて干からびるのも悪くねぇなぁ……なんて呟いた。傷口から流れる体液が、川面を渡る生温い風に乾いていく。痛みはとうに麻痺している。ああ、眠い。サラサラと聞こえる水音が心地良い。このまま眠れば……幼い頃に死に別れた母ちゃんや、散り散りにはぐれたきょうだい達に会えるだろうか……。  ギギギィーッ!  閉じかけた瞼の向こうから、耳障りな金属音が響いた。地獄の門が開く音ってのは、こんな感じなのかもな――。 「ねぇ、貴方……生きてる?!」  霞んだ視界に、鋼鉄の車を降りて駆け寄ってくる細長い影が映る。……なんだ? トドメを刺しに来たのか? 「起きて! 死んじゃダメ!」  凛と澄んだ声がして、ふわあっと身体が浮いた。これは天使……それとも女神の仕業か? おいおい……こんな俺でも、天国に行けるっていうのかよ?  なんて、ぼんやりと考えたのが、最後。  次に目に飛び込んだ風景に、俺は呆然とした。薬臭い白い部屋の中で、手足をベッドにガッチリと固定され、腕にチューブが刺さっている。身体のあちこちがズキズキ痛む。  結論として、俺は一命を取り留めた。ご友人と流れ星を見に来ていた姫様が、暁天の薄明の中、瀕死の俺を見つけ、病院に運んでくれたのだ。額に傷痕は残ったが、胸の縫合痕は体毛に隠れて目立たなくなった。  退院できるまでに回復すると、姫様は俺を城に迎えてくれた。どこの馬の骨とも分からぬ、こんな俺を。 「夜に出会ったから、貴方の名前はナイト。毛色も黒っぽいし、ね?」  俺は姫様の優しさに救われ、彼女の笑顔に惚れた。この恩義は、一生忘れない。彼女に拾われた命なんだ、捧げて散るなら本望だ。それが俺が彼女に出来る、唯一の誓いなんだから。
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