月光

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月光

友達と遊んだ帰り道だった。 水上月子は思わず足が止まった。 街灯と月明かりに照らされた目の前には 中村アキがいた… 思わずガン見してしまい目があった。 素知らぬフリをして通り過ぎようとした時、アキの方から声をかけてきた。 「すみません 以前、駅のホームで声をかけてくれた人ですよね?」 あの時と同じ制服でバッグまで一緒だった。 いえ知りませんと、とぼけてもよかったのだが、アキの雰囲気が以前と違ったので思わず好奇心が出た。 「中村アキさんですよね?」 月子は友達用の愛想笑いを浮かべた。 「ええっと…すみません 何処かで会った事ありました?」 月子と面識がないアキは怪訝な顔をした 「友達があなたのファンだったので以前バスケの試合を見に行きました。」 アキの表情が曇る 「そうか それで…」 「だからあの時、ホームで自分に声をかけたの?」 「知っていたからじゃ無い、あなたが電車に飛び込むつもりだと思ったから…」 月子から一瞬、愛想笑いが消えた。 「なんてね… そんな気がしただけです。 あの時とだいぶ雰囲気が変わりましたね?」 「まぁご存知の通りこの有様だから」 そういうとアキは手首から先がない左腕を軽くあげた。 「今は少し諦めがついたというかそんな感じ?」 アキは俯きながらそう答えた。 駅のホームであった時から、この娘は全部わかっていたんだ。 それをアキ自身も感じていたから声をかけたのだけれど 「そういえば君の名前を聞いてもいいかな?」 「私は水上月子です。 月の子と書いて月子。」 そう言って苦笑いしながら空に浮かぶ三日月を指差した。 「駅に行くの? こんな夜遅くに独り歩きは不用心じゃない?」 「ええ駅まで行きます でも私こう見えても逃げ足は早いんですよ… 中学の時100mで全国出てるんで」 そういわれて見た月子のふくらはぎは、 確かにスプリンター独特の筋肉のつき方をしていた。 「マジか… 凄いじゃん 今も陸上やってるの?」 「色々あって辞めちゃいました」 「そうかぁ ちょっともったい無い気もするけどね… もし迷惑じゃなければ駅まで送るよ。」 友達用の猫を被った月子と最寄り駅まで当たり障りのない会話をしながら歩いていった。 改札口で別れる間際に、月子は初めて会った日のような表情でこう言った。 「あなたのスリーポイントは芸術的に美しかった… アレがもう見られなくなったのはとても残念だった」 他にも何か言いたそうだったが、ありがとう と言って月子は改札口の中に消えていった。 駅からの帰り道、アキは月子が改札の前で言った言葉を思い返していた。 たぶんアレは月子の本心だろう。  初めてあったホームで見せた、冷たい感じこそが素の月子なのだと思った。 引きこもり気味だった事もあり、月子はアキが怪我をして以来、初めて出来た知り合いだった。  バスケ部のエースではない、片手の無い中村アキに声をかけた人間… 連絡先を聞いておけばよかったなと後悔したが、聞いたところできっと嫌な顔をしそうだなと思い苦笑いした。 アキは空を見上げた。 月子が自己紹介した時に指差した三日月は雲に隠れて見えなかった。 しかし雲が薄い場所からは、月の光が漏れいる。   その存在をひっそりと示すように…
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