蛇口

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蛇口

私には物心ついた時から蛇口が見えていた。 私にしか見えない幻の蛇口… 私が成長するに従って見える蛇口の数は増えていった。 蛇口が見えるのは殆どが男性だったが、たまに女性もいた。 逆に男性でも蛇口を持っていない人もいた。 形はマチマチで、古い物から新しい物まで種類は様々だが、ソレは決まって右肩の上あたりで宙に浮いていた。 幻覚なので触れる事は出来ない。 でも私が望めば、蛇口を開く事ができるのはわかっていた。 でもソレは他人の蛇口だったし、幼いなりにも蛇口を開けば、そこから何か恐ろしい物が出てくるような気がしていた。 誰かが教えたくれた訳ではない。 子供が、暗闇を怖がるような本能的な判断… だから私は、ずっと蛇口を開く事はなかった。 私の両親は数年前から、とある新興宗教にのめり込んでいた。 私達家族の生活は、どんどん宗教が中心となり変わっていってしまった。 友達は私と距離を置くようになり、学校には行かなくなった。  そんな生活に馴染めず毎日、寝る前に私は泣いていた。 元の生活に戻りたかった… 私の思いとは裏腹に。両親は益々教義に傾倒していった。 今思えば、洗脳状態だったのだろう。 13歳になった年に私は両親から教祖に 巫女として献上された。 教祖が望み両親が応じた、教祖が私を指名した理由はわからなかった。 巫女と呼ばれる少女は私の他に2人いた。 同じ施設内にいて、たまに姿を見かけたが会話することはなかった。 話をしてみたいと思った事はあったが、付き人達に近づく事を止められてからは 諦めていた。 私は誰よりも大切に扱われていたが何の決定権もなかった。 籠の中の鳥 それが私に与えられた新しい場所だった。
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