10人が本棚に入れています
本棚に追加
佳奈
森 佳奈は私が高校3年生の時に初めて出来た彼女だった。
私の一(はじめ)という名前を(イチ)と呼んでいた唯一の人物でもある。
陰キャラで人見知り気味な私とは違い、
誰とでも仲良く出来るような明るい女の子だった。
佳奈は「ねぇイチー お願い」と言いながら私に雑用やらアレやコレやを押し付けて来るのが彼女の常套手段だった。
背の低い佳奈は、普段はさばさばしていて男っぽい感じだったが、頼み事をする時だけ上目遣いに私を見上げて可愛く微笑んだ。
彼女だけに(イチ)と呼ばれる事は嬉しかったが明らかに私はただの雑用係だったし、彼女があざと可愛く振る舞って他の男子や、男性教師とも良好な関係を築いている事も知っていたので、ソレが彼女なりの処世術なんだろうと深入りは避けていた。
ある日、佳奈と女子から人気のある秋葉という男子が2人でいるところに運悪く出くわしてしまった。
当時、秋葉には学校で1、2を争う美人の彼女がいたし、それは誰もが知る事実だった。
後日、私は佳奈に呼び出された。
「ねぇ イチ 私が秋葉君と一緒にいた事黙っていて欲しいんだけど…」
いつもの上目遣いだったが笑顔はなかった。
「誰にも言ってないし、言う気もないから」
関わりたくない私が立ち去ろうとした時
ホッとした様子で ありがとう と言った時の佳奈の顔はすごく悲しげで、
あざと可愛さを振りまいて上手に世渡りする彼女とは別人に見えた。
それから暫くして、私は佳奈から秋葉との恋愛相談を受けるようになった。
恋愛相談とは名ばかりで、佳奈が誰にも言えない秋葉との関係を吐き出す穴みたいなものだった。
王様の耳はロバの耳 と床屋が穴に叫んでいたように…
秋葉と佳奈の関係は1年位前から続いていた。
話を聞く限り佳奈は2番目の彼女だと言ってはいたが、都合のいいセフレ扱いに私には見えた。
それでも誰にも言えない秋葉との話を楽しそうに話す佳奈を私は好きになってしまった。
あざと可愛いだけなら好きにはならなかったと思う…
佳奈には計算高さと感情に振り回される
純粋さが同居していた。
そんなある日、彼女は私に一つの提案をした。
「ねぇ イチ 私と付き合って欲しいの
誰にも内緒で…」
そして私は佳奈の2番目の彼氏になった
最初のコメントを投稿しよう!