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「比葉 私の事を守れる?  命をかけて…」 そう芙美に言われたのは、芙美専属の秘書になって一年が経った頃だった。 「はい 水上常務、比葉は死ぬ気で常務をお守りします。」 私は敬礼をして笑顔で応えた。 初めはいつもの冗談だと思っていた。 芙美は普段見せない憂いを含んだ表情を浮かべると私の正面に立った。 水上常務のこんな顔を見るのは初めてだった。  彼女はいつも口元に微笑を浮かべ爽やかで涼しげな顔をしていたからだ。 私のような新人に対しても気安く話かけてくれて場を和ませてくれる、そんな上役だった。 この日は違った。 芙美は私の頬に片手を充てると、私の目を覗き込んだ。 なんて魅惑的な瞳なんだろう… 心臓の鼓動がどんどん速く激しくなって下腹部がキュッとなるのがわかった。 会社のセミナーで初めて芙美を見た日から私はずっと芙美に惹かれていた。 芙美のような女性になりたいと思っていた。 だからこそ、この会社に入る事を切望したのだった。 その憧れた芙美の手が頬に触れている。  私はこの時、同性である芙美にたぶん欲情していたのだと思う。 しかしその事を私自身が認識するまでにはまだ暫くの時間がかかるのだが… かろうじて正気を取り戻した私は芙美に聞き返した。 「私は何から命をかけて常務を守るのでしょう?」 「もし比葉の覚悟が決まったらその時に話すわ。 返事は急がないから… もし断ったとしても、然るべきところに移動させ、あなたの会社での立場は保証します。」 でも… 「もしこの話を受けて貰えれば相応のお礼はするから…」 その言葉を囁く芙美を見た時、今まで爆発していた心臓が逆に止まった… ような気がした。 そう言葉を続ける芙美からは、いつもの仕事でみる水上常務とは違う、水上芙美という人間の顔が垣間見えた。 この人もこんな表情をするんだ…と少し たじろいだのを今でも覚えている。 甘い魅惑に満ちた誘いを私が断われない事をわかっているように、芙美は話が終わると微笑んだ。 それはいつもの水上常務にソレだった。
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