散歩

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散歩

中村アキは日課になりつつある夜の散歩に出かけた。 彼は今の現状を少しづつだが受け入れ初めていた。 この春に左手を事故で失っていた。 何処からか秋の虫の音が聞こえる もう夏も終わりに差し掛かっていた。 夜はアラが見えなくて落ち着く… 手を失ってから昼間は人の目が気になって家に閉じ籠りがちだった。 自分を気遣ってくれる友人でさえ、疑心暗鬼になり自ら距離をとってしまった。 もしアキ自身が友人の立場だったらどうしていただろう? きっと頑張ったところで何もしてあげられなかっただろうと思う。 今となって分かるありがたさだったが、当時の自分にはそんな気持ちに気づく余裕などなかったと思い返す。 少しは諦めがついたのかな?…と自問自答した。 夜の散歩は、昼間部屋にいる時よりポジティブな感情が浮かぶ、さりとて現状の何かが変わる訳ではない。 不自由な生活も、失ってしまった過去もどうしたらいいかわからない未来も 時間はゆっくりとアキの精神を正常なものにしつつあったが、身体の傷も心も失ったソレ等を元に戻す事はない。 いつものように思案に耽りながら散歩は続いた。 知り合いには会いたくなかった。 気を使うのも、気を遣わせるのにも疲れていた。 思考は堂々巡りを繰り返している 「あぁ面倒くせー」 いつもの独り言を呟いた。 ふと気がつくと月明かりの中、目の前に誰かが立っていた。
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