幸福な夢

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幸福な夢

仁科芙美は業火の中に立ち尽くしていた。 街全体が燃えていた。 ドン ドンとお腹にまで響く爆発音があたりに響いている。 辺りに人影はない、暗闇のなか燃え上がる炎で昼間のように町並みが浮かびあがる。 芙美は自分の家に向かって必死に走った。 足がもつれて上手く走れない、身体が鉛のように重かった。 ドン ドンと低い爆発音が芙美を追いかけるように鳴り続ける… 近所の大通りを走り抜けると、やっと自分の家が見えてきた。 芙美の家は燃えていた。 家の前に立つ両親の後ろ姿が見えた。 ふたりは手を繋いで燃えている家に向かって歩いて行く。 「嫌ぁー  行っちゃだめ お父さん お母さん 行かないで お願い ひとりにしないで」 芙美は泣きながら必死に叫んだ。 全力で走って来たために、かすれた声が出るだけでその声は両親には届かない。 両親は、今まさに燃え盛る家の中に消えて行こうとしている。 芙美もついていこうとしたが、炎が怖くて近づく事が出来ない 「お母さん 行かないで…  お父さん帰ってきて…」 家の前に座り込んで泣き叫んだ。 目を開けると心配そうな顔で覗きこむ母の顔があった。 「怖い夢でもみたの?」 私は母の膝枕で目を覚ました。 ドン ドンと鳴り響く爆発音は相変わらず続く… そうか… 家族で花火を見に来てたんだ。 急に恥ずかしくなって母の腰に思いきり抱きついた。  いつもの母の匂いがした。 「10歳にもなって甘えん坊ね」 母の声が頭の上で響いた 芙美の髪を優しく撫でる。 「昼間、海ではしゃぎすぎて疲れたんだろう」 ビールを飲みながら上機嫌な父が私の脇腹を指で突っついた。 私はくすぐったくて体をよじる。 夏休みの最初の土曜日は毎年、海上花火大会がある。 母のお手製のお弁当を持って 昼間は海で遊んで、夜は砂浜で花火を見るのが一家の恒例行事だった。 まだ夏休みは始まったばかりだった。 明日は何をして遊ぼうかと考えながら芙美はまた母に抱きついた。
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