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離さない
珍しく泊まりの出張が入った。
カリンをどうしようかと迷った結果、動物病院でペットの短期預りをしてくれるらしい…
私は予約の電話をする事にした。
出張当日の朝、箱入り娘を詰めるとニャーニャーと鳴くキャリーバッグを抱えて動物病院に向かった。
病院に着くと、いつもいる若い看護師の女性が中から出てきた。
「猫の預り予約をした神崎です」
「神崎カリンちゃんですね お預かり期間は明日の夕方までで間違いないですか?」
「はい 大丈夫です 5時位には迎えにこれると思います」
カリンはバッグごと奥につれていかれ、暫くすると空のバッグだけが戻ってきた。
前払いの料金を支払うと、お願いしますと言って病院を後にした。
2日目の仕事もトラブルも無く無事に終わり、私は現地から直帰するとカリンを迎えにいった。
預ける時とは逆のプロセスを経てカリンはバッグに入れられ戻ってきた。
一夜ぶりのカリンは心なしかゲッソリして見える…
ニャー ニャーと鳴き続けているがその声はかれていて、か細かった。
「カリンちゃん餌も食べないし、一晩中鳴き止まなくて…」
看護師の女性は申し訳無さそうにカリンの様子を教えてくれた。
「すみません お手数おかけしました。
普段預けたりしないもので…」
ソソクサと病院を後にして家に帰ってきた。
バッグから出したカリンは挙動不審だった。辺りの様子を伺ってキョロキョロすると自分の段ボールの小屋にトボトボと入っていき出て来なかった。
心配して中を覗き込むと寝始めたようなので放って置いた。 死ぬ事がないのはわかっていたから…
夕飯を食べ終えた頃カリンは小屋から出て来て、リビングで本を読んでいた私の隣にそっと寄り添った。
チュールをあげると、それを美味しそうに食べた後かすれ声でニャーと鳴いた。
猫も声がかれるんだ、と今日初めて知った。
隣に陣取ったカリンを撫でながら彼女は病院のゲージの中で何を思っていたのだろうと考えていた。
慣れないゲージは怖かっただろう
彼女は私が自分を見捨てたと感じただろうか?
このまま殺処分されるかもしれない恐怖に怯えただろうか?
考えてみたところでカリンがこの小さな頭で何を思うかなんて想像もつかなかった。
彼女には親も兄弟もいない友達もいない
飼い主の私が居るだけだ。
そう思った時、小さく真っ白な毛むくじゃらの生き物が愛おしくてたまらなかった
私はカリンを絶対に見捨てたりしない。
しかし私は知っていた
私は偽善者の嘘つきだった。
気付くと私はカリンを撫でながら泣いていた。
森 佳奈 の事を考えていた。
かつて私が裏切ってしまった佳奈
カリンのように私を信じていてくれた
彼女の手を私は離してしまった。
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