最後の階段で

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(ああ、もう死ぬんだな) 1度も死を体感したことがないのに ふっとそう思った。 真っ白な病院の天井を見つめながら 54年の長く、短い自分の人生を振り返った。 学生時代に、結婚に至らなかった恋人に、 苦労した就活時代に、慌ただしい社会人時代に、 もう死んでしまった両親.... もっと勉強しておけばよかったな... もっと彼女に寄り添えばよかったな... 会社の健康診断を受けておけば、 ガンも末期になる前に見つかったのだろうな... 結局親孝行もできなかったな... 思い浮かぶのは全て後悔ばかりだ。 少しウトウトしてきた。 そういえば、と1匹の猫のことを思い出す。 まだ小学校低学年の頃だった。 公園の低木の下で震えている子猫を見つけた。 親猫は見つからず、このままではいけないと思い、 家に連れて帰った。 親とも相談してその猫を飼うことになった。 確か自分が高校を卒業する頃に死んでしまった。 (あの猫の名前は...) 急に強い眠気が襲ってきた。 (まあ、起きてから思い出すか) そう思い、ゆっくり目を閉じた。 看護師さんの自分の名前を呼ぶ声が聞こえたが、 眠気に抗えず、そのままその声は遠くなっていった。
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