銀は眩しいから

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銀は眩しいから

真嶋(ましま)サーン」  もう聞き慣れてしまったよく通る声。俺はその声の方向をゆっくりと振り返る。 「めんごー。電車遅延してたー。ゆるちて」  階段を3段飛ばしてジャンプ。明るい銀色の光が目に飛び込んでくる。目に突き刺さるほど、近くに。彼の銀髪が俺の目に映る。眩しいくらいに、目を細めて。 「ねえねえ。怒ってる?」  金魚のアレみたいについてくる彼と距離を取ろうとする。半径3mくらい。でも、彼はその距離をなんなく飛び越えてきてしまうから。 「ねえー。こっち見ろって言ってんの」  胸ぐらを掴まれる。白昼堂々。午後1時。昼食を取るために出かけたサラリーマンやOLが街を行き交う時間帯。不幸中の幸いというべきか、ここは木陰の隅だ。見られたとしても、サラリーマンが若者にカツアゲされてるとしか見られないだろう。と、俺は推察する。 「目ぇ見ろよ」  胸元がぎりぎりと締め付けられる。正直いって、こいつは馬鹿力だ。俺は、渋々彼の目を見た。 「……なんか可哀想だね」  俺が目を合わせたことに気を許したのか、彼の指が俺の胸ぐらから離れていく。よかった。俺ははぁと溜息をこぼす。彼は機嫌が良くなったらしい。俺の腕を掴んでずんずんと路地裏に歩いていく。オフィス街だったのが、だんだん薄暗くなってきて。たどり着いたのはビジネスホテルの前。いつも、彼と行く場所だった。手慣れた様子で部屋を予約してしまう彼を、遠くの方で見てる俺。昼間っからなにしてんだ、ほんと。 「じゃあ、本日もよろしゅう」  どこかの方言混じりで彼が言う。部屋の扉が、鈍い音をして閉じた。
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