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どっちが大人だ
お題:凛とした失望
あ。と思った瞬間、遅かった。
カチャンと音がして、床にガラスのコップだったものが散らばった。
瞬時にこの状態を作ってしまったことを怒られると連想し、すぐさまコップを隠そうとする。
床に広がる牛乳と破片を両手で救った。
案の定、素手で破片を触ったせいで皮膚が傷つき血が滲む。結果、そのせいでさらに怒られる時間は増えた。
あの時、母は単純に私のためを思って言ってくれたのだ。
よそ見しながら歩いてはいけないよ。
素手で破片を触れると怪我をしてしまうよ。
そんな事を言っていたんだと思う。けれど、「やってしまった」という気持ちが強すぎて、当時の私には何の言葉も入ってこなかった。
・ ・ ・ ・
「あ、」
と思った瞬間、遅かった。
カチャンと音を立ててコップが割れた。
ニュースを見ながら食器を洗っていたのだ。不注意だった。
せっかく娘と同じコップであったのにそれはもう持ち手が壊れてしまって、縁もヒビが入ってしまって 使い物にならないだろう。
「だいじょうぶ?」
と、聞いてくれた優しい娘に「うん、大丈夫」と答え。今度こそ怪我をしないようビニール袋を使い、コップの破片を回収する。
「おそろいのコップ、壊れちゃったの?」
純粋な問いかけに胸が痛みながらも肯定する。
きっと、娘は泣くだろう。どうして割ってしまったの? 大事じゃなかったの? せっかくのお揃いだったのに……。そんな避難があがると思った。
娘は何を思ったのか、食器棚を開けると自分の――……お揃いのコップを床に落とした。
カチャン、と音がしてコップにヒビが入る。
呆然とする私をよそに、娘はただコップを見ている
悲しみを分ける。痛みを分かち合う。
そんな言葉があるが、まさかこんな乱暴な方法をとるとは思わなかった。
これが悲しさへの共感となるときっと世間一般で見たら間違いかと思う。
破壊で解決するのはよくない。もしかしたら悪い意味で極端な子かもしれない、などと思うのはあまりにも悲観的だろうか。それとも優しすぎる「いい子」というのだろうか、動揺した私には判断が難しい。
けれど、娘は凛とした表情で私を見上げた。
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