登校中

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お題:寒い花  ハアと、自身の両手に息をかける。  月も変わったのに、どうしてまだ寒いのかと不満が積もる朝。  もう春でもいいと思うのに未だ上着は手放せない。肩を打ちに丸め、若干頭を垂れて、早足で目的地に向かう人間の多いこと、多いこと。 「まあ、自分もその一人なのだけど」  そう思いながら電車に乗り込む。  通勤ラッシュで人同士で揉み合いへ試合を重ねては、少しは温かくなった。が、人の熱気で温められた具合は気分的には最悪としか言いようがないわけで。  人が押しのけあって流れるように電車を降り、それでもまた各々が早足で向かう。  誰かがぶつかり、一人は謝り一人は無視する。マナーのいい人、悪い人があふれる具合は、いつだって見る光景だ。  早足の中、大量の人間たちは目的地に向かう。  その道中で、朝食のために近くの店に寄れば、バス停へと向かう者もいる。  はたして自分はといえば、後者だろう。  車内は学生同士ギュウギュウに詰まっている。 「おはよう」 「はよ」  から始まる会話はいくつもあって、今度は体温だけではなく声も重なり合う。  それに、揺れるバスの中で人に挟まれているせいでだいぶ眩暈がした。  車酔いになりやすい体質だ。  助けを求めるように下車ボタンを押し、人を押し退け降りる準備をする。  いつも目的地の一つ前でわざと降りる。  お金は浮くし、健康にもいい。  憂鬱な時間が減るのも大変ありがたい。ただ、問題として、外はまだまだ寒いのだ。  スマートフォンをいじるとしても、太陽光が邪魔をして液晶が暗くSNSが見られない。  あきらめて、音楽を再生するも、それでも曲名が選択できない。  寒さと気持ち悪さで嫌気が差して、スマートフォンもイヤフォンもまとめて鞄に突っ込んだ。  これから暖かくなるだろう。そんな天気予報だったけれど、残念ながら自分は教室の真ん中の席なので春の訪れは感じられない。  朝からとても疲れてとぼとぼ歩けば、自然と視線も下がるものだ。 「あ」  ふと、道端に目がいく。  小さな花が咲いている。と、思えば小さなモンシロチョウがふわふわと飛んでいる。  これで春だと思うのは、年寄りじみた思考回路を疑うか、相当のロマンチストだ。けれど、そう思わずにはいられなかった。  だいぶ先の方ではバスが停まり、そこから人が続々と降りている。  その光景を見て、なぜかはわからないけれど、少し優越感を抱いてしまった。  それは、きっと私の心が狭いからだろう。  きっと、そのはず。  そう思いながら、春の訪れに顔が綻んだのを自覚した。
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