雪の日

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雪の日

  お題:殺された粉雪 「嗚呼、嫌だ嫌だ。寒い寒い」  そう言いながら娘は自室に戻る。  一昨日から天気は怪しかった。今朝方は地面にうっすらと雪が広がっていた。 「粉雪だ。それに、すぐに溶けるよ」  そうは言われたが、寒いものは寒い。雪があれば余計に寒いと感じる。  春よ来い。そう待ち遠しげに呟きながら布団に入る。  布団の中はひんやりしていて足先から腹の中まで一気に冷えた。震えて、足同士を、太ももを擦り合わせても到底暖かさは取り戻しそうにない。 「もし」  と、声がし娘は目を開ける。  聞いたことのない声は今にも泣きそうであって、消えそうにもある。男の声か、女の声かはわからないが、子供であるのはたしかだろう。 「どなた?」  聞いてもすぐに返事はこず、ややおくれて「もし」と再度言われる。少し怖くなって娘は布団を鼻までかぶり、襖の向こうを見ようとする。だが、声は襖の向こうではなく障子、すりガラスの向こうからする。  外にいる。誰だろう。  すりガラスだから見えない。それどころか、ガラスだというのにその姿すら見えない。 人ではないのだろう。もしかしたら視界に入らないようわざと隠れているのかもしれない。 声は今にも泣き出しそうなのだ。向かいの童もこうやって何かに隠れながら母親に、父親に謝っている姿を見たことがある。不意にまた冷えたような気がして嫌だと思う。 「そんなに嫌わないでください」 「どなた?」 「わたしたちは感謝を申し上げたかっただけなのです」 「感謝?」 「だけれど、わたしたちはそうさせてしまったのですね」 「ねぇ」  嗚呼。と嘆く声を最後に聞き、娘は眠りにおちた。まだ話を聞きたかったのだが、けしてそんなつもりはないのだよと言いたかったのだが、絶え難い眠気には勝てなかった。  翌朝、戸を開けて太陽を拝む。  春を思わせるあたたかな日差しに、今日は良い日だと思いながら庭を見る。  ふと、石の上広がる小さな水溜まりが目についた。  あ、と声をあげて娘はそれに近寄る。  薄く積もった雪をかきあつめ、かきあつめ、そうしてできた小さな雪兎がそこにいたはずだ。  それはまるで涙のあとのように石に広がっていた。 「違うのよ」と、娘は言う。「そこまで嫌なわけではなかったの」
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