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飲み飲まれ
お題:間違った闇
眼を開けると己は何もない一室に放り込まれていた。
放り込まれたというのは、なにぶん己は酒の癖が悪い。
それゆえ付き合う友達らも己の具合を知っているので、そうして酒に浮かれた己が「おめぇ」と言い出した頃は、腕を引かれ店を出ては家の冷たい玄関に放り込まれると言うのが常であった。
今回もそうであろうと思ったが、玄関にしてはどうも広い。
下駄箱も、靴を脱ぐ場所もなければ、それは格子のついた窓がある一室であった。
格子に触れ、外を見ると夜であろう。暗い。なのにこうも部屋がわかるのは己が余程興奮しているのか、アルコールがもたらした影響かもわからない。
よろよろ、もしくはよたよたといった調子できた道を戻ろうとすると、当然ながら扉にあたる。
さて、ノブを回そうとしてもそれはびくりともしない。
がちゃがちゃと数度やってから鍵穴すらないと知り、異常事態にみるみるうちに頭どころではない全身から寒くなっていく。
再び格子の外へ向かい「おうい、おうい」と助けを求めても、声はただただ夜闇に溶ける。
これはいったいどうしたことかと憤慨し、そして今度は助けてくれと叫び倒し、泣いて懺悔をするが一向に何も変わらない。
「もう酒はやめるか?」
そうしていると、不意にそんな声がして、己は格子へ飛びつく。
「やめる、やめるとも。誰にも誓える」
「では、わかった」
するりと目を覆う夜闇が消え去ったかと思うと、そこには数人の友らがいた。
彼らはニタニタと笑いながら「調子はどうだね」と尋ねてくる。
それが酒で酔った者に黒い布で目元を覆うような粗末な悪戯だと悟った時は、一回でも怒鳴ってやろうかと思った。だが、彼らの後ろで見た格子が目に入り息を飲む。
「薬にはなると思ったのだよ」
そのうちの一人がそうやって水の入ったグラスを寄越す。
それを飲むと、なんだか厭に暖かい。
それが不思議で、彼らを見ると彼らの顔がグニャリと曲がる。口も鼻も目さえも歪み、悲鳴はゴボゴボと鳴るだけだ。恐ろしさに友らを押し退けえずく。
「たらいを持ってきてくれ。これはやるぞ《﹅﹅﹅﹅﹅﹅》」
遠くも近くからも思えるそんな所から声がし、いよいよ耳を塞ぐ。
たらいに向かい二度三度嘔吐をすれば、こうして安い懺悔を何度も何度もするのであった。
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