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このくだらぬ企みに、せめて妹が関与していなければいいと、女は思う。せめてそれだけは信じたい。
青白い月を見上げていた女の耳に、風に乗って楽の音が聴こえてくる。
きれぎれにではあるが、どこか哀愁を帯びた旋律と、切なく爪弾かれる弦の音が漂ってくる。――人が? こんなところに?
女が驚いて立ち上がると、環状列石の門の向こう、月明かりの下に騎馬の人物が、馬上で何か楽器を鳴らしながら近づいてくる。反射的に腰の後ろに手挟んだ剣に手を伸ばしかけ、女はそれをやめた。
今さら、こんな場所で命を守って何になるか。
相手も、女の存在に気づいたらしい。弦の音が止み、馬の足音だけが近づく。馬の足が止まり、男の声で呼びかけられた。
「この場所が、我ら一族の聖域と知ってのことか?」
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