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俺は、テセウスじゃない。当たり前だが、この国で何度もテセウスと呼びかけられると、ゾラの自我認同も揺らいでくる。俺は本当はテセウスで、あの西の森で死んだんじゃないのか。本物は死んで、それでもなおアルベラに執着して、亡霊となって付きまとっているんじゃないか――。
シメオンだか言う、アルベラの異母兄に至っては、俺がテセウスじゃないなんて、疑いもしなかった。
『ねえ――アルベラを、愛してる?』
『……僕も、愛してた。幸せにしてあげて』
シメオンの言葉が頭の中をぐるぐると回る。
テセウスも、シメオンも、アルベラを愛してた。――どちらも、絶対に結ばれないと知りながら。片方は、王女の夫にはなれない身分のゆえに。片方は、異母兄ゆえに。
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