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「姫君……しかしですな、万一成長の後に、人間に危害を加えるようなことがあれば……」
「お願い!」
アデライードの翡翠色の瞳はすでに潤んでいて、両手を胸の前で組んで、じっとゲルフィンを縋るように見る。
――反則だ! 中身十二歳の恭親王の涙目には何とも思わないが、姫君の涙目に逆らえるわけないではないか!
ゲルフィンが背中に汗をかきながら、視線を動かす。
「いや、しかしですな……」
「ゲルフィンさん……」
アデライードの翡翠色の瞳から、真珠のような涙の粒が零れた瞬間、ゲルフィンは陥落する。
「……し、仕方ありませんな、何とか方法を……」
「本当?! ゲルフィン、ありがとう!」
隣の部屋から駆け込んできたシウリンが、満面の笑みを浮かべて嬉しそうに礼を言う。その黒曜石の瞳がキラリと光り、形のよい唇の端が上を向いている。その瞬間、ゲルフィンは悟る。――やられた。
シウリンは、ゲルフィンがアデライードに弱いことに気づいている。
一見、無邪気で何の悪意もない表情の下で、しかしシウリンは相当に目端が効き、人の機微を読む。
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