文芸部室の雑談

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「すると、体力がない人間は、恋愛には向いていない・・そういうことなのか?」と僕が訊いた。 「向いていないとは言っていない」中垣はそう言って、 「だがよく考えてみろ。恋愛に手馴れている奴が、女に振られて、首を括ったりするか? そんな話、聞いたことがないだろ?」と続けた。 「そういや、そうだな」伊藤が思い当たることでもあるのか頷き、 「俺は、最近、運動不足だからな」とズレたことを言った。 「そういう意味じゃなくて!」中垣は伊藤の言葉を切り、 「簡単に言うとだな、恋に破れて、自殺する人間は心が弱いんだよ」と強く言った。  恋に破れて死を選ぶ・・  すると、「中垣くん」と、小山が言った。 「心が弱くても、鈍感な人間もいるし、恋愛上手でも、すぐに心が折れる人間もいるよ」  小山はそう言って、 「あまり断定するもんじゃないと思うけどなあ」と続けた。  話が堂々巡りだ。よく分からなくなってきた。けれど、よく分からない会話がこの部室の雑談の面白さとも言えた。    雑談のメンバーは、一回生から三回生が中心だ。四回生は早々と就職活動となり、あまり部室には来ない。  雑談の内容は、小山や中垣のように文学に関する話題が少なからずあるが、二回生、三回生になると、本の話よりもどちらかと言うと、遊び方面や就職の話題が多かった。これは推測だが、もう文学とかに興味薄れているのかもしれない。
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