学生会館ラウンジ

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 佐伯先輩は雰囲気が悪くなったのを気にしてか、「話を変えよっか?」と小さく言った。  佐伯先輩が他の話題に移った後、小山が、僕をチラチラと見ているのが分かった。  薄気味悪い奴だな、と思っていると、 「北原くん。女の子、紹介しようか?」   小山が唐突に言った。その言い方は淡々としていて、「このお菓子、食べる?」と同じような口調だった。 「えっ?」  小山が言ったのと同時に、佐伯先輩が冗談を言い、それに反応した伊藤と中垣が大きく笑ったので、小山の言葉は皆には聞こえてはいなかったみたいだ。  この時点で、この丸テーブルは、佐伯先輩と中垣と伊藤の輪と、小山と僕の二人の世界に分断された。  僕が小山の顔を見ていると、 「北原くんは男子校だったんだろう?」小山はそう言って、 「僕は高校も男女共学だったし、大学も文学部だから、女の子の知り合いが多いんだよ」と言った。  小山は文学部の英米文学科だ。つまり女の子だらけなわけだ。だから、人の良い小山は同じ語学のクラスの女の子たちに「男子の知り合いが多いから、紹介するよ」と言っているらしい。  その「男子の知り合い」の一人が僕というわけだ。
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