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そして、三崎涼子が信頼している小山でさえ、
「僕、あまり、絵画には興味はないんだよ」と言っている。
夏目漱石にしか興味がない小山が思い出したのが、僕だったという訳だ。
「北原くん、三崎さんにOKと返事を伝えておくけど、いいだろ?」小山は念を押すように言った。
「僕なんかでいいのか?」と思ったけど、そうは言わず、
曖昧に「ああ、かまわないよ」と答え、
「絵画展って・・どんな絵画なんだ? 全然分からないよ」と訊ねると、小山は少し間を置いて、
「確か、ベルギー印象派・・と言っていたな」と答えた。
ベルギー印象派・・何のことかさっぱり分からない。
文学でも分からないのに、それに加えて、絵画も分からない。
分からない世界がどんどん増えていくような気がした。
三崎涼子は、海外文学やSFにも興味がある上に、絵画にも詳しいのか・・とてもついていけそうにない。
断るべきかな? と一瞬思ったけど、そうはしなかった。
なぜなら、
大学に入ったら、勉学に向き合うことも大切だったが、恋愛もしてみたいというのが本当のところだったからだ。
金持ちの子息たちで賑わうキャンパスに放り込まれたような僕は、このまま親しい友もできず、彼女もできなければ、これからの四年間、彼らの様子を羨ましげに見ながら過ごすということになりかねないと思っていた。
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