426人が本棚に入れています
本棚に追加
「三崎さんとどんな話をすればいいんだろう?」
僕が言うと小山は、
「実は僕もよく知らないんだ」と言った。
「えっ?」
三崎涼子は小山に信頼を寄せていると思っていたが、当の小山は三崎さんのことを何も知らないのか。
よく分からない関係だ。
「彼女の趣味とかも知らないのか?」
「知らないよ。そんな話はしたこともない」
「本当に?」
僕が強く訊ねると、小山は思い出したように、
「ああ、そうそう。三崎さんの方からじゃないけど、僕から彼女に話しかけたことはあるよ」と言った。
「何て言って話かけたんだ?」
僕が訊ねると、小山はこう言った。
「三崎さんは、『三四郎』を読んでいないって言うから、『読まないの?』って訊いたんだよ」
思わず吹き出しそうになったが、そこは堪えることにして、「そう言ったら、三崎さんは何て返したんだ?」
「三崎さんは何も言わずに笑っていたよ」小山はそう言って、「なんでかな?」と不思議な顔をした。
三崎涼子が小山を信用した理由が少し分かった気がした。小山は、何か話すきっかけがあると、「三四郎を読んでる?」と訊ねるそうだ。
ある意味、小山は女性が安心して話せるタイプなのだろう。少なくとも警戒心は抱かれないと思う。
最初のコメントを投稿しよう!