沈みゆく恋

図書館前広場

◆図書館前広場

　三崎涼子と美術館に行く前に、一度会っておいた方がいい、と小山に言われ、昼休み、僕は大学の図書館前で彼女と待ち合わせをすることになった。
　図書館はキャンパスの中央に位置し、その前は小さな広場になっている。
　大理石の椅子が点在し、学生たちは待ち合わせ場所に使ったり、語らう場所としても使っている。
　当然ながら、この大学の上位クラスにいる連中。つまりお坊ちゃん、お嬢さんの姿も多く見かけるのがこの場所だ。
　テニスラケットを手にしていたり、楽器のケースを持ち、それぞれ談笑している。
　彼らに何か悩みとかあるのだろうか？　そう思えるほどの屈託のない笑顔が溢れ返っている。
　その中、僕は彼らの一員のように佇んでいた。
　もちろん、この場所を待ち合わせとして使うのは初めてのことだ。
　そして、僕の隣には小山が保護者の付き添いのようにいる。
　小山は、「美術館に行くことをきっかけにして、三崎さんと、つき合えばいいと思うよ」と何かの商品を追加するみたいに簡単に言っているが、彼女と交際するなど、考えらなかった。
　第一、彼女と会話を交わしたこともなかったし、彼女の趣味なども全く知らなかった。