いっそのこと。

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まだ少し高い春の空をぼさっと眺めていると、後ろから不意に肩を小突かれた。 「めちゃくちゃシケた顔してんじゃん」 小突いた腕の正体は同じ学部の友人、榊 博人(さかき ひろと)だった。 榊は持っていたタバコに火をつけながらこう続けた。 榊「レイちゃんまだ就職先の目星つけないの?」 玲「ん、まーね」 榊「あ、そうだ。聞いた?中元(なかもと)が大手企業に内定決まったんだと」 玲「へー...」 中元は入学当初から優秀な人間だった。 鬼のコミュニケーション能力と、地頭と人間性の良さで学生生活を送ってきた、例えるなら某青い猫型ロボットの長寿アニメに出てくる「出○杉くん」のような奴だ。 そのような結果を聞いても何の驚きもなく、きっと彼の人生図では決まりきっていた結果なのだろうとさえ思ってしまう。 榊「へーって...。普通にすごくね?だって東京の本社勤務だぞ」 玲「すごいとは思うよ」 榊「じゃあ何だよ」 玲「いや......。大手で給料良くてもやりたくない仕事だったとしたら俺ならやる気失せそうだなって思っただけ」 榊「そこは個人の天秤だよなー。生活のために仕事をするかどうかじゃん?」 玲「そーだけどさ。俺ならやらないってだけ」 榊「お前ほんとそういうところ勿体無いよな、黙ってればイケメンなのに」 玲「イケメンじゃないし、余計なお世話だ」 榊「へいへい」 彼が安泰な将来を手にしたことは間違いのない事実であり羨ましくは思うが、それと共に焦りと妬みによく似た感情のせいで悪態をついてしまう。 玲「いっそのこと空想の世界で生きられたらいいんだけどな」 榊「いいじゃん。小説か漫画でも書けば?」 玲「それができるなら今こんなに将来のこと焦ってねぇっつの」 玲「......できることなら書きたいよ、小説」 榊には聞こえない小さな声で、煙草の灰と一緒に夢をこぼした。
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