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「……東!」
後ろから進藤の声がしたが、
「……もうすぐミーティングを始めるから進藤も早く来い」
進藤に背を向けたままそれだけ言うと、東を引っ張るようにして資料室を出た。
「……ぶ、部長!手を……」
大人しく手を引かれていた東がそう言う。
くるっと振り返り東を見つめる。
……東、進藤に何をされた?何を言われた?キス?告白?東に俺以外が触れると想像しただけでおかしくなりそうだ。
どうして1人で資料室になんてついて行ったりしたんだ……。
「……東はもう少し警戒心を持った方がいい」
何とかそれだけ呟いた後、
「明日からの出張に持っていく資料に訂正箇所があったから修正をお願いしたい」
必要なものは東のデスクに置いてある、それだけ言って東の手を離し先にオフィスに戻った。
それから通常通り業務をこなしていったが、内心気が気じゃない。
昼前には頼んでおいた仕事を仕上げて東が俺のデスクに来たが、まともに顔を見られなかった。
その後は午後から取引先との打ち合わせが数件入っていて忙しい俺と、今のうちに出張の最終確認をと本条がやってきた。
……こんな時に出張か。
それから昼休憩の後2人で仲良く談笑しながら戻ってきた東と進藤を見て確信する。
2人は上手くいったのだと。
どうせ失うことになるのなら好きと伝えればよかった。後悔が波のように押し寄せる。
そして取引先との打ち合わせをこなし、ちょっとしたトラブルの処理をしてようやく帰路についたのは18時を過ぎた頃だった。
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