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結局あの後、また何事もなかったように部長は残りの食事を全て平らげ、「美味かった、ご馳走様」とこの前同様食器を洗ってくれた、というか食洗機に掛けてくれた。 あまりも普通過ぎて、さっき起こったあれこれは私の妄想なんじゃないかと本気で思った。 「東、もう1本飲む?」 食器を片付けた後そう誘われたが、とてもじゃないけど部長と2人の空間にはもういられなかった。 意識しないでいるのはもう無理だったから。 遅くなっちゃうので今日はもう帰ります、そう言って何とか着られるくらいにまでは乾いた服に着替えて帰ろうとすれば、車で送ってく、と言う部長。 いや、歩いて5分そこそこの距離で車とかエコじゃないんで、1人で歩いて帰れますから、と断ればそれもそうかと笑われ、じゃあ危ないから歩いて送ってく、と言われればそれは道中気まずいしとそれもお断りする。 すると送らせてくれないなら今日は東を帰さないけどいい?とニヤリ笑って言い出すから渋々送ってもらうことを承諾した。 帰る頃には雨は完全に止んでいた。 あまりに緊張し過ぎて何もない所でつまずけば、部長がぐいっと腕を掴んで支えてくれた。 ほんと危なっかしい奴だな、と優しい顔で微笑まれるからもうドキドキが止まらない。 やっぱり1人で帰ればよかったと思いながらうちのマンションに到着すると、 「……明日、10時に迎えに行くから。風邪ひかないようにな」 その言葉と共におでこにキスをして部長は帰っていったのだったーーーー。
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