一話

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一話

 青天に、真っ赤な帳が降ろされる。  夕暮れが迫る空を見て通りを歩く人々は顔をしかめ、或いは着物の襟を正して足早に家路に着こうとする。  まばらな人の波から離れた村はずれにて、一人の少女がひっそりと歩を進めていた。  結ばれもせず肩を覆う程無造作に伸ばされた黒髪。小柄な体を覆う、着古した色の薄い着物。閉塞的なこの村でさえ年頃の娘となれば多少なりとも見た目に気を遣うというのに、そのなりは素朴というよりもやぼったい。  少女の目的は、村の外側に造られた石灯篭であった。赤い塗料で全身を塗りたくられているそれは古びていて、大層年期を感じさせる。かがみこみ中を覗き込もうとしていると、細い背中に石が当たる。振り向いてみると、子供たちが揃って囃し立てていた。 「赤憑きだ!」 「赤憑きが来たぞ!」 「バケモノは出ていけー!」  雑言をぶつけられた張本人は無言でただ見つめ、子供たちが一瞬たじろぐ。  その眼差しに苛立ちや憎悪はなかった。相手が怯んだのは、その瞳の色のせいだ。  燃える夕焼けと同じく、鮮やかな赤。  少女の瞳は、よく映える緋色であった。 「こらっ、なにやってんだい!」  村の女性が子供たちを庇うようにして駆け寄り、眉を寄せて注意する。日が暮れるまでに帰るよと促されるも、遊び盛りの子らは口々に文句を出す。 「まだ暮れやしないよ」 「悪い鬼退治だ!」 「火灯しに関わっちゃいけないって前も言っただろう。ほら、鬼に食われたくなけりゃ日暮れ前に帰るんだよ!」  子供たちの肩を抱き、女は足早に去る。後姿をぼうっと見送ると、少女は自らの仕事に戻った。  火口を見て、無表情を僅かにしかめさせる。中には石が幾つも入れられていたのだ。恐らく先程の子供たちの仕業だろう。  邪魔なものを全てかき出し火打石で火をつけると、火袋の内部に淡い炎が灯った。それを確認すると立ち上がり、また別の灯篭へと向かう。これから村周辺の灯篭全てに火を灯す仕事が待っているのだ。  それが牡丹の、日常だった。
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