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「何の用だ。わざわざ遊びに来たわけでもあるまい」
「おおそうだ。オマエに頼みたい事があってな」
「……無茶は吹っ掛けないでくれよ。こちらは一介の貧弱な人間だ」
そこで牡丹の方をちらりと見たので、お茶のお代わりかと思って急須を掲げた。そういうわけではないがと苦笑しながらも、無月は湯飲みを差し出す。
その様子を、セイは顎に手を当てて含みのある眼差しで見物していた。自らもお茶のお代わりを貰い、喉を潤しながら成程なあと呟く。
「ま、そこの弟子に聞かせられん話でもない。オレは仕事の依頼をしに来たんだ。ムゲツ、オレの国に仕事をしに来い」
突然の申し出に、牡丹は少しびっくりして師匠の反応を窺う。言われた本人は、顔をしかめて難色を示していた。
「私は、この村を離れる気はないよ」
「提灯を溜め作りしておけばいいだろうが。なに、蓄えが無くなる前にここへ戻ればいい」
「簡単に言ってくれるな」
弦次郎の申し出も断ったのだから、この依頼も受けないのだろうと牡丹は予想していた。しかしセイは全く堪えた様子を見せず、のんびりと胡坐をかく。
「返事は急がん。色よい答えを貰えるまでのんびり待たせてもらうさ!」
図々しい態度に、牡丹は無月と顔を見合わせる。渋い表情はけれど、突然の押しかけを迷惑に思っているようには見えなかった。
「師匠がいいなら、あたしもいいよ」
牡丹が告げると、無月は困ったように苦笑して、そうかと相槌を打つ。
こうして二人の生活には、急遽新たな同居人が加わったのだった。
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