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牡丹が灯篭に火を灯す際、偶に同行人がつくようになった。弦次郎が寄ってきて、話しかけてくるようになったのだ。ただの挨拶で終わることもあれば、とりとめもない雑談を振られることもあった。
目的が分からず首を傾げる事もあったけれど、彼との会話は厭うほどでもなかった。もっと言うなら、多分、嫌いではなかった。
弦次郎は随分人に気を配るのが得意な男なのだろう。牡丹がどれだけ簡素な返事をしても、慣れた様子で次の会話を出してくる。
そうしていつものようにぽつぽつと言葉の応酬を続けていると、幾つもの小さな視線に気付いた。
「また赤憑きだぜ」
「今度はのぼうの弦と一緒だ!」
「こら、人を悪く言うのはやめなさい」
弦次郎がたしなめるも、声音は優しげな、悪く言えば頼りないものだった。それでは当然懲りる事もなく、子供たちは増々囃し立てる。
一人が石を投げようとして、咄嗟に牡丹は前に出る。
自分なら慣れているしどうとも思わないけれど、弦次郎が同じ目に遭うのは何となく嫌に感じたのだ。
「おい、赤憑き達なんか放っておこうぜ」
子供の一人が待ったをかける。仲間の話なら聞く耳を持つのだろう、子供たちはべーっと舌を付きだしてから逃げるように駆け出す。庇ったようにも取れる子供が去り際にこちらをちらりと見て、ふいっと視線を逸らした。
以前、村まで送った子供だと思い出した。
「あの子は、先日夜中に村を抜け出した子です。鬼を捕まえられるかどうかと、友人間で言い合いになったそうでして」
子供が見つかるまで兄や自分も捜索に加わっていたため、小耳にはさんだらしい。子供の勢いは恐ろしいものですね、と弦次郎は呟く。悪口を言われても苦笑で受け流す姿は、大人びている風には見えた。
「提灯もなく夜外へ出るなど、危うい事です。まあ最近は村の中も少々剣呑ですが──」
穏やかな口調が、ぶつりと途絶える。
険しくなった視線を追うように牡丹は首を動かした。
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