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「村の者達に、また何か言われたのか」
「赤憑き、化け物だって」
その言葉に無月の表情が陰りを帯びる。牡丹は気遣うように撫でられたままで口を開いた。
「あたしは気にしてないよ。でも師匠まで一緒に悪く言われるのは腹が立つ」
「仕方がないさ。火灯しは昔からそういう扱いを受けているのだから」
「師匠のずっと前から?」
「……ああ、そうだよ。代々ね」
宥めるような手つきが細やかな黒髪をひと房掬い、指先から零れ落ちる。男が優しく少女を宥める光景を、赤々と燃える行灯の光が見守っていた。
「私としては、お前までそのような扱いを受ける方が堪える」
「師匠と同じ扱いを受けるだけなら、あたしは嬉しいよ」
微妙に噛み合わぬ会話に、無月は苦笑する。一方どうしてそんな反応をされるのか分からないとばかりに牡丹は首を傾げた。
提灯作りに加え、日課で村を取り囲むように設置された灯篭に火を灯す。火に憑りつかれた職として赤憑きと罵られ村人から遠巻きにされながらも、二人は淡々と仕事をこなし続けていた。
そんな穏やかな日常を、戸を叩く音が遮った。二人は驚いた表情を浮かべて戸口を見つめる。
牡丹は戸口を睨んだまま、小声で呟いた。
「……鬼かな?」
「いいや、入口の提灯の火が灯っている限り、襲ってはこない筈だ。それに鬼ならばわざわざ戸を叩くなんてせずに、蹴破ってくるだろう」
二人が言葉を交わし合う間に、またとんとんと戸が揺らされる。
今度は遅れて、若い男の声が響いた。
「夜分遅くに申し訳ありません。村の者でございます。火灯しの方と話をさせていただきたい」
丁寧な物言いに、二人は顔を見合わせた。
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