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夜には静まり返る村も、日光の下では店の呼び込みや通行人達で賑わう。
師匠との静かな二人暮らしとはかなり異なる明るい喧噪が、牡丹は少し苦手だった。
通りを歩いていると、時折村人がひそひそ囁き合う内容が聞こえてくる。
「提灯作って火をつけるだけで食っていけるなんて、羨ましいもんだよ」
「薄汚い身なりのくせに、俺達より悠々と村の外で遊んで暮らしてやがる」
「やだねえ、赤憑きなんて不気味ったらありゃしないよ……ひっ!」
基本的に何を言われても気にしないが、無月のことまで悪く言われるのは見逃せない。赤い瞳に敵意をもって睨まれ、女が悲鳴を上げる。
そそくさと立ち去る人々をしり目に、少女は淡々と足を動かし続ける。まだ日がさんさんと天に浮かぶ中、肩に背負った新品の提灯を背負った牡丹は端日家の屋敷へと到着した。
端日家は村で唯一、火灯しと代々取引を続けてきた家系だ。限られた数の提灯を牛耳り、外部との僅かな交流も手掛けている。そのため村一番の権力者であり、金持ちでもあった。
母屋へ通され、座して迎えたのは現当主の喜一郎であった。弟である弦次郎より一回り年上の、厳格そうな男に見える。対面で正座をした牡丹はお辞儀をし、師匠から言われたように慣れない敬語で話す。
「師の代理で参りました。牡丹と申します」
「……ほう」
喜一郎はじろりと小柄な姿をねめつける。今までここに訪れるのは師匠である無月の役目であったから、怪しんでいるのだろう。
ずけずけと言いそうになるのを堪え、いつものですとただ献上品を差し出した。師匠からあまり反論しないようにと言い含められていたからだ。
新品の提灯を数点確認した喜一郎は頷き、引き換えに金子を渡してくる。師の代わりを無事務め終えて、牡丹は小さく息を吐いた。
「牡丹、と言ったか」
退室しようとして呼び止められる。気難しげな眼差しは、牡丹を探るように見つめていた。
「何故此度は、弟子が寄こされた?」
「知りません」
問いに正直に答える。牡丹は私の代わりを果たしてくれないかと頼まれ、ただ頷いただけだ。師匠の頼みだからと、深く気に留めなかったのだ。
歯に物着せぬ答えに、喜一郎は面食らったようだった。簡潔過ぎる分、その言葉に裏はないと判断したのだろう。
「まあいい。余計な真似はせず、とっとと去れ」
下がっていいと言われ、今度こそ退室した。
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