諦める準備

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“ご案内セット”の中には スリッパと手袋にメジャー 間取り図、筆記用具が入っていた 1LDKの間取りはEYとほぼ同じで 南向きのベランダからは高さもあって遠くまで見渡せる 「最近の物件は家具家電付きが殆ど 初期費用を抑えられるのが良いって 早々に埋まってしまうことが多いんです」 「此処って契約したらいつから住めますか?」 「えっと、契約の書類揃えるのに二日 審査も直ぐに通るだろうから お急ぎなら水曜日には鍵をお渡しできますよ」 ・・・水曜日 「レガーメでお勤めなら、契約書のお渡しも直ぐだし」 「保証人は必要ですよね?」 「一名は必要。うちの物件なら 先に鍵をお渡しできるんだけど 此処はオーナーが違うので・・・」 「実家にとんぼ返りするしかないかな」 「本当に急なんですね」 「今はルームシェアという名の間借り人生活なので」 「フフ、間借り人って」 実は大学四回生で年下だという、みよさんとメッセージアプリのIDを交換して内見は終わった 「さて、どうしよう」 実家へ帰ったことにしたから 最低でも夕方までは戻れない とりあえず時間潰しをしようと カリーナの雑貨を見ることにした ・・・ハァ とは言っても、目的もなく 雑貨を見ているのに 思い出すのは凛さんのことばかりで 気持ちを切り替えるために デパートでお一人様ランチでもしようかと駅前広場へと足を向けた 中央駅に近付くごとに人が増える いつもとは違って家族連れが多いのは日曜日の所為だろう 人波に飲まれながら歩く私の視線の先に見知ったシルエットが見えた ・・・え?凛さん? ただそれだけなのに 尻尾でも振るように飛びついていきたい 声を掛ければ此処に居ることを説明しなきゃならないけど そこをクリアできれば 一緒にランチに行けるかも・・・ 急速に頭を回転させて 上手い言い訳を考えながら 頬が緩む私の目が 次に捉えたのは 駆け寄ってくる楠田さんの姿だった 「・・・っ」 やっぱり そう思った 幼馴染で投資のパートナーは 人生のパートナーでもあるんだ だって・・・ 凛さんのために助手席のドアを開けてあげる楠田さんは 私と同じ顔をしているように見える そう・・・ 凛さんに恋する表情 回転を失った頭の中が 霞んで鈍くなる その苦しさから逃れるように デパートから駅へと向きを変えた
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