諦める準備

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勢いのまま電車に乗って 出掛ける口実にした実家に帰ってきてしまった 「それにしても急ねぇ」 久しぶりの実家は両親も兄も居て リビングでお茶を飲んでいるから なんだか肩の力が抜けた 「なに?どうしたの?クビ?」 母の脳内はどうなっているのだろうか 出された湯呑みを両手で包みながら 笑いが込み上げてきた それがジワリと涙も連れてきて 「・・・っ、変な子」 三人は見ないフリをしてくれるのか目を逸らした これだから実家は居心地が良い 忙しさを言い訳にして遠退いていた足を戻して良かった 素直になると欲が出てきた 「お腹空いた」 お一人様ランチを食べ損ねたから 腹の虫も黙っていない 「じゃあ久しぶりに回転寿司行くか」 母に目配せしながら提案してくれたのは父で その優しさに乗っかることにした 「やった、私ね、記録作れるよ? 兄貴には負けないからね」 「おっ、望むところだ」 「フフ、じゃあ行きましょう」 徒歩圏内にある回転寿司屋さんは 何かといえば候補の一番にあがる店で 家族揃ってお酒を飲む中井家にとって 散歩がてらの距離にある此処は貴重な場所になっている ・・・ フラッと帰ってきて感情のおかしな娘を 何も聞かずに受け入れてくれた家族に安心して いつもよりピッチを上げてビールを飲んだ所為で なんだか千鳥足の私を気遣ってか 帰りは僅かな距離なのにタクシーのお世話になってしまった
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