猫がくれた一歩

3/3
前へ
/3ページ
次へ
「お父さん、お母さん!」 慌てた様子の私を見て、二人は目を丸くした。 「どうしたんだい、陽菜」 「あのね、私、本当は将来の夢があるの。ネイリストになりたい!」 「えっ…?」 二人は呆然としたが、資料とネイルチップを差し出すと、ようやく私の言葉の意味を理解したようだった。 お母さんが優しい顔で尋ねる。 「ああ、陽菜はネイルの仕事がしたいってことなのね」 「うん。ずっと夢見てたの。私の作ったネイルで、皆をキラキラの笑顔にしたいって」 「そうなのね。これ、陽菜が作ったの?すごいじゃない」 「本当に?」 「ええ」 お父さんは専門学校の資料を見て、難しい顔をしている。 「そうだったのか…。てっきり陽菜は、大学に行きたいのだとばかり思っていたよ」 「今まで黙っていて、ごめんなさい。でも、これが私のやりたいことなの」 二人は顔を見合わせた。 やがて、お母さんが私を見て口を開く。 「陽菜、お母さんはいいと思うわよ。人生一度きりなんだから、自分の行きたい道に進んだ方がいいわ。ねっ、お父さん」 「そうだな…。学校の成績がよいとはいえ、自分の希望しない進路では納得できないだろうからな。お父さんとお母さんは陽菜を応援するよ。だから、後悔しないようにしなさい」 私の夢が、受け入れてもらえた…! 喜びで胸をいっぱいにしながら、私は声を詰まらせて頭を下げた。 「ありがとう。お父さん、お母さん」 涙を流す私の肩を、お母さんがポンポンと叩く。 「頑張りなさいよ、陽菜」 「うん!」 するとリビングに、ココがひっそりとやって来た。 「あっ、ココ!ココのおかげで、私、夢への一歩を踏み出せたのよ!」 「ミャーオ」 「えっ?」 「ミャー」 不思議なことに、もうココは人間の言葉を話さなかった。 「ココ、どうして…。ううん、ちょっとだけでもお話できて、嬉しかったな。ありがとう、ココ」 「ミャーン」 背中を撫でてあげると、ココは気持ちよさそうに目を細めた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加