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猫がくれた一歩
このままでいいのかという思いが、頭を駆け巡っている。
「はぁ…」
自分の部屋に籠った私・高田陽菜は、机の上の模試結果を見てため息を吐いた。
高校二年になって初めての模試。
別に点数が悪かったわけではない。
むしろ好調だ。
志望大学の合格圏だし、さっき両親も喜んでくれた。
「すごいわね、陽菜!この調子でいけば受験も問題ないわ。ね、お父さん」
「そうだな。今まで通り勉強を頑張って、無事に合格するんだぞ」
でも…。
「私、本当は夢があるんだけどな」
机の引き出しを開けて、自作のネイルチップを取り出す。
桜を描いた華やかなピンクのデザインは、一番のお気に入りだ。
ネイルチップ作りは私の唯一の趣味だ。
小さな世界に、綺麗なものをたくさん散りばめていくのは楽しい。
時間を忘れて没頭できるし、友達からもすごいって言われる。
だから本当は、ネイリストの専門学校に行きたい。
もっとネイルの技術を磨いて、仕事にできたらいいな。
けれど、周りは私が大学に進学するものだと思っている。
志望大学はレベルが高いから、就職にも困らないだろう。
将来を考えれば、そっちの方が堅実な道なのかもしれないけれど…。
「諦めていいのかなぁ」
頬杖をついていると、
「わぁっ、綺麗だね!」
「えっ!?」
突然可愛らしい声が聞こえたので、私は驚いて足元を見た。
するとそこには、飼い猫のココがいた。
アメリカン・ショートヘアのメスで二歳になったばかり。
クリクリの大きな瞳がチャームポイントの、大切な私の家族だ。
「ココから声が聞こえたけれど…まさかね。空耳よ」
「空耳じゃないよ」
「わっ!?」
今、はっきりとココの口から人間の声がした!!
「私、疲れているのかな?幻聴がするなんて」
するとココは、机の上に飛び乗って私の顔を覗き込んだ。
「幻聴でもないよ。アタシ、陽菜が心配になったから話しかけてみたの」
「本当にココが喋ってる!夢じゃないよね?」
「うん、これは現実だよ」
とんでもなく非現実的な出来事だけれど、不思議と私はこの状況を受け入れられた。
だって。
「ココ、私のことが心配だったの?」
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