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達郎は嘘を吐いていなかった。
本当にしおんの事を微塵も覚えていなかったのだ。
ショックじゃ無かったと云えば嘘になる。
しおんは、この教師と別れたく無くて卒業式の時は号泣したのだ。
卒業なんてしたくないと泣きじゃくった思い出を返せコンチクショウ。である。
けれども、達郎の誰だっけ発言の後に「どこの眼鏡君?」と首を傾げた恩師の姿に、しおんは怒り通り越して呆れてしまった。
そういえば、この人は昔からこういう人だった。
薄情だ等の言葉が思い付く前に、しおんは元担任教師の態度に納得してしまった。
理由は、しおんが『常田達郎』と云う人間がどんな人物なのが熟知していたからかもしれない。
あの始業式から一ヶ月が経過していた。
色々覚える事は山程あるが、高校教諭という仕事に少しづつ慣れ始めた。
相変らず常田先生は自分の事を思い出してくれないが。
彼とは高校時代の三年間それなりに付き合いがあり、何度も面倒事を押しつけられたりと他の生徒と比べてかなりの交流があったというのに。
(ま、あの人らしいって云えばそれ迄なんだけどね)
自分が生徒の頃から変わらない元担任教師にしおんは「ハハ」と薄く笑う。
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