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「せーんせ」
昼休み。渡り廊下で物想いに耽るしおんに、後ろから生徒が声を掛けてきた。
「先生って僕の事?」
振り向いたしおんの前には、明るい茶髪が印象的な男子生徒が立っていた。
今年三年に進学した常田兼秀である。
見た目と違い成績優秀。生徒会にもヤンキーにも顔が利く近辺では有名人だと先輩職員から聞かされていた。
驚く事に、彼は常田達郎の甥っ子にあたると云う。
その容姿は血縁関係の所為か達郎によく似ている。
サラサラのストレートヘアな伯父と違ってくせ毛の持ち主である兼秀はニイと笑った。
「そう。今此処に居る教師は先生しか居ねーだろ?」
「そうだね。でも先生って呼ばれるの、まだ慣れなくって…」
しおんは照れ笑いを浮かべる。
「本当、アンタ教師ってツラじゃねーよなァ。始業式の日に挨拶したアンタ見た時、俺てっきり生徒かと思ったもん」
年上に対して言葉使いがなって無いのは伯父譲りらしい。
眉間に血管が浮くのを抑えつつしおんは作り笑顔を浮かべる。
「常田君、だよね?僕になんの用?」
「や。ただ暇だったから呼んでみただけ」
「なんだよソレ!?」
しおんの笑顔はあっさりと崩れた。
兼秀はプッっと噴く。
「やっぱり俺の思った通りだわ。アンタ、からかわれ易い方だろ?昔、友達とか先公にパシリ扱いされてたって感じ?」
この生徒はタイムマシンでも所持してるのだろうか?
自分の過去をまんま云い当てられたしおんは悔しさが募る。
けども自分は大人だ。生徒を指導する教師だ。
こんな安易な挑発に乗る訳にはいかない。
冷静さを取り戻そうと葛藤するしおんに兼秀は続ける。
「アンタあだ名は『のび太くん』だったろ」
「うっさいわァ!!野比家に生まれた男子の宿命なんだよ!!」
冷静さが一瞬で逃げ出したしおんは生徒を怒鳴りつけた。
息を切らして自分を睨む教師に兼秀の目が丸くなる。
一瞬後にブハッと派手に噴き出した。
「アンタ面白ェー。俺、気に入ったわ」
兼秀はニヤリと余裕の笑顔を見せている。
「上から目線禁止!!これでも僕教師だよ!?」
「でも先生って呼ばれるの、まだ慣れてねーんだろ?」
兼秀はクシャリとしおんの頭を撫でつけると去って行った。
「これからはしーちゃんって呼ばせて貰うわ」
「ちょ…」
言葉だけ残して背中姿のまま手を振る彼に、しおんは何故か懐かしさを感じた。
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