僕のミーをシロと呼ばないで

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 突然、怒涛のような声がブランコの方から聞こえた。僕は何事かとそっちを向いた。  明らかにスタッフの人とは違う、かといって一般の人とも違うオーラを放つ人物が現れた。上手に年を重ねた男性だ。不機嫌に顔を歪ませても、綺麗な顔はその綺麗さを保ち迫力を増す。目には独特の強さが宿り、周りのものを怯えさせる力をもつ。いくら世間に疎い僕でもあの俳優は知っている。一度絶頂期を向かえ紆余曲折を繰り返し、そしてセカンドポジションに返り咲いた、叶野光だ。揺ぎ無い安定を手に入れた超大物俳優、叶野光なのだ。 「まだ来ないのか! こっちはベストコンディションで2時間前から待っているんだぞ! この後の予定だってある。 いい加減にしろ!」  叶野光は、イライラを爆発させていた。それを宥めるようにスタッフの一人が仕切りに頭を下げ、もう直ぐですからと何度も謝っている。  滝本ユリエはもう腹を括ったのか、手元のスマホを弄り叶野光がどんなに怒ろうが関係ないという風に別の空間を作り出している。こんな時、女は強い。  
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