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「・・・みぃ~」
落胆した僕の声が、か細く誰も居ない歩道に吸収されて消えていった。
ミーは居なかった。
例えようもない重たいものが、ズンっと背中に乗った。背中は丸くなり僕は項垂れ、暫く動く元気もなくて立ち竦んでいた。
「ひろ?」
聞き覚えのある鼻に掛かったような声が、僕の耳に届く。僕は静かに項垂れた頭を上げて、その声の方を向いた。
「...美咲...」
こんなところで何をしているのと、言わんばかりに驚いた彼女の姿が僕に近づいてきた。美咲は僕の大好きな彼女だ。
...ああそう言えば、一緒にご飯を食べようと約束していたのを思い出した。でも、ミーを見逃したショックで立ち直れない。
「どうしたの? ちょっと暗くない?」
「...ミーが..消えちゃった」
美咲のこめかみがピクリと動いた。
「ミーはもういい!
そのうち帰ってくるわよ。ぜったい!」
「...ミーは、よその子になるんだ..。」
「ミー、ミーって、今日こそは決着をつけるんだから!
どっちがひろに相応しいか!」
「...ミーが、よその子になるなんて嫌だ...。」
「ちょと聞いてるの!?
ひろ?ひろ?ひろ?
ひ・ろ!」
美咲は、落ち込んでいる僕の腕を引っ張った。美咲の鼻に掛かったような声が、黄色いビニールパーカー女性がシロ様と呼ぶ声とシンクロした。自分の名前さえ呪われてる。
「なんだか、シロって聞こえて不愉快だな」
「もう、訳わかんない。それより、ミーと私、どっちが大事か!
今日こそはっきりと話し合いましょう!」
美咲は、僕の腕に自分の腕を絡ませた。
公園の方から、鼻に掛かったような女性の声で「シロ様が来たわー!」と喜びの声があがっていたんだけど、その声は僕の方まで届いていなかったんだ。
ただ僕は悲しみに打ちひしがれながら、美咲に違う呼び名に変えようよ~と訴えた。
この先、実は、ミーが「シロ」ではなく「ひろ」に反応していたことを知って大喜びをするのだか、まだまだ先の話だ。
《END》
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