のら猫とペットボトルの君

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 緩やかな山沿いに並ぶ閑静な住宅街。森に囲まれた大きなお屋敷の前で一匹の白ぶちノラネコがなーご、なーごと(さか)り声を上げていた。 「チビタ、またやってるみゃ?」 「にゃあ、またペットボトル屋敷の前で求愛活動に(いそ)しんでいるゴロ」  遠くから眺めていたチビタのネコ仲間、クロとチョロは呆れていた。  屋敷に設置された放水銃がウイーンと回転すると、チビタに向けて水が発射された。 「にゃぎゃあ!」  勢いのついた水流に当たったチビタの体が飛ばされる。チビタは慌てて、そこから一目散に逃げ出した。  びしょ濡れになったチビタがクロとチョロのところまでトボトボと歩いてきた。 「チビタ、いい加減諦めるみゃ。あそこはネコ撃退装置が完全装備された家みゃ。近づくことはできみゃいよ!」  黒ネコのクロはチビタにパシッと猫パンチをする。 「俺はあの()に一目惚れしたにゃ。必ずペットボトルの(きみ)に会って、俺の想いを伝えるにゃ」  遠くに見える屋敷の二階の窓から、いつも外を眺めている一匹の猫がいた。 「気持ちはわからんでもにゃいが……あれはラグドールと呼ばれる超お嬢様だゴロ。ノラネコのお前とは住む世界が違いすぎるゴロ」  三毛ネコのチョロは右足で耳をパタパタと掻いた。 「そんなことはにゃい! 俺の(ひたい)に刻まれたハート模様を見れば、きっとわかってくれるにゃ」 「チビタ、自分の額……見たことあるみゃ?」 「いや、にゃい。でもたぶんあるにゃろ?」  クロとチョロはにゃいにゃいと首を振った。 「チビタくん、どうやらお困りのようだねにゃふん?」  三匹が振り向くと、そこにはシャムネコ探偵のマーロウが煮干しをパイプのように咥えて佇んでいた。
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