言わないままで

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 卒業式が終わり、クラスメイトがそれぞれ別れを惜しんでいる中、俺はこっそりと教室を抜け出した。  もう二度と通ることがない廊下を急ぎ足で歩く。在校生がいる賑やかな廊下を抜け、渡り廊下を通って別棟へと向かう。  人通りが少ない階段を上がり、静かな廊下を進むと、やっと目的の理科室が現れる。  ドアの前で大きく深呼吸をする。高揚感ともつかない緊張を胸に、俺はドアをスライドさせた。  理科室の独特の薬品臭が鼻を突く。  窓辺に凭れて、外を見下ろすスーツ姿の人物を見つけ、俺はホッと胸をなで下ろす。 「秋月先生」  俺の呼びかけに、外を見ていた横顔がこちらに向けられる。野暮ったい乱れた髪型に、ダサい眼鏡。いつもはよれよれ白衣に、地味なシャツとスラックスで、全体的にダサかった。  授業も面白みにかけるし、大人しい性格なのか、生徒ともあまり関わろうとしていない。  だけど今日は卒業式ということもあって、一応はまともなスーツ姿だった。こういう格好も出来るのかと、新鮮でもあり、何だか俺が気恥ずかしかった。 「香坂か。どうしたんだ?」  俺の顔を見て、少しだけ困惑した表情をする。 「どうしたもこうしたも、先生に会いに来た」  俺はそう言って、秋月先生に近づく。目の前に立つと、「先生こそ、なんでこんなとこいんの? 卒業式なのに」と突っ込む。  困らせる質問だと分かっていても、どうしてもからかいたくなった。 「……なんでと言われてもなぁ」  人差し指で眼鏡を押し上げ、秋月先生が首を傾げる。
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