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「いいの? 佐崎、帰っちゃうけど?」
秋月先生の表情が途端に強ばる。それでも「何で佐崎なんだ?」と、平然とした口調で返してくる。
「誤魔化さなくたって良いから。佐崎の事、好きなんでしょ?」
佐崎は俺のクラスで一番品行方正で、頭の良い生徒だった。彼は生徒会長も務めていて、先生たちの覚えも良い。だけど、秋月先生がそれ以上の感情を抱いていることは、俺には分かっていた。
「……別にそんなことは」
「今日で先生と生徒では、なくなるんだからさぁ。それに、もう二度と会えなくなるかもしれないんだよ」
俺は秋月先生を説得しながら、無理やり腕を引っ張る。
慌てふためく秋月先生を丸椅子に座らせると、俺は持っていた鞄を長机に置いた。
「後悔先に立たずだよ。先生が生徒の見本にならなきゃ」
「香坂、俺は別に……」
「佐崎のこと、嫌いなの?」
俺はまるで咎めるような目で、秋月先生を見下ろす。あからさまに耳を赤くし、俯く姿は、まさに恋している人間そのものだ。
「嫌いじゃないが……」
「告白できるチャンスは、今日しかないんだよ。何が不安なわけ? 失敗したって、もう会うことないんだから、問題ないじゃん」
「そういう問題じゃあ――」
「佐崎が男だから? 今の時代、そんなのたいした問題じゃないから。てか、先生に告られたとかって、言いふらすような奴じゃないし」
三年間同じクラスだったこともあって、それなりに佐崎のことを知っている。本当に真面目で、良い奴であることは間違いない。俺とは正反対で――だから秋月先生は、見る目があると思う。
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