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俺は秋月先生を説得しつつ、鞄からワックスを取り出す。それから、「動かないでよ」と言いながらワックスの蓋を開けて、中身を指先につけた。
「おい、何する気だ」
「俺には分かってる。先生は、めっちゃイケメンだってこと」
そう言いつつ、掌でワックスを伸ばす。それから寝癖が付いたような髪の毛を指で梳き上げていく。
初めて触った秋月先生の髪に、こんなに柔らかかったんだと何だか感動に少し手が震えていた。
「やめろって、何なんだ」
「動くと変になるから。大人しくしててよ」
「いや、だから、やめろって」
逃れようとするのを、何とか言葉で押しとどめる。
「動かないでって。ちゃんとイケメンにするからさ」
俺がひかないと分かると、秋月先生はやっと諦めたように溜息を吐く。卒業生ということもあって、あまり強くでれないのかもしれない。
抵抗をやめたことで、室内が静まり返る。たくさん話したい気持ちもあるのに、口から言葉が出てこなかった。色んな感情が邪魔をして、何を話せばいいのか分からなくなっていたのだ。
「うん。良い感じ」
ずっと触っていたと思っていたが、あまり時間がないので、形が整った所で切り上げる。
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