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「先生……めー閉じて」
「何で?」
「良いから。絶対開けんなよ」
あからさまに不服そうな顔をしたけれど、秋月先生が目を閉じた。
心拍数が跳ね上がる。こんなお願いをしている自分の度胸に驚きながらも、最後になるかもしれないという、やけっぱちな気持ちが背中を押していた。
俺は緊張で強ばる指先で、秋月先生の眼鏡に触れる。ゆっくりと外して、それから顔を近づけた。
触れる程度のキスをすると、さっと上体を引いた。
呆気に取られた顔をする秋月先生と目が合う。俺の見立て通り、秋月先生は整った顔立ちをしていた。怜悧な目元が見開かれ、高い鼻梁が際立っていた。薄らと開かれ唇に、俺は自分の思いきりに羞恥と興奮を感じていた。
「ほら、立って」
俺は誤魔化すようにして、秋月先生の手首を掴む。よろけるように立ち上がった秋月先生を引っ張り、それから背後に回って両手で背中を押した。
「行ってきなよ。先生が話あるって、佐崎に言ってあるから。教室で待ってる」
「えっ? どうして……」
「いいから。早く行けって。じゃないと、眼鏡返さないから」
ドアをスライドさせ、無理やり秋月先生を追い立てる。
秋月先生が顔だけ振り返る。それから口を開きかけるも、結局何も言わずに行ってしまう。その背が見えなくなるまで、俺は立ちつくした。
「失敗すれば良いのに」
零れた本音に、秋月先生が気付くことはない。
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