6人が本棚に入れています
本棚に追加
2
人見知りが激しかった保育園の頃、唯一の友達だったあっくんが休みだと知り、玄関前でもたついていた俺に「せーので入ろう!」と手を引いてくれたのが、遊馬 海斐 だった。
それ以来、海斐は俺の中で密かなヒーローになった。
室内遊びの方が好きだった俺が海斐と遊ぶ事は少なかったけれど、太陽に透ける柔らかな茶色の髪が風にはためく様子を眺めるのも、他の子に混じって彼とブロック遊びが出来る雨の日も好きだった。
そんな彼をショッピングモール内のペットショップで見かけたのは、バレンタインデーの前日だった。
ガラス張りの中に居る小さくて凛々しい顔をした犬を指差して、
「このこ、きょーからおれのおとーとになるんだぁ」
と言って、くしゃっと思い切り笑った顔は今と変わらない。
その眩しさにふわふわとした心地のまま「またね」を告げた後、イベント事が好きな母が、さぁ充、選んで! と連れて行ってくれた特設コーナーには、いつものお菓子売り場で見る物よりもキラキラとして見えるチョコレート達が並んでいた。
ハート型に、キャンディの形、可愛い桃色の箱や、リボンの付いたきれいな箱。
特別な日のお菓子が溢れる中で俺は、さっき見たばかりの水玉模様の犬の形をしたチョコレートとばっちり目が合った。
──海斐くんにあげたい!!
これ! と即座に指差し、自分の物のふりをしていくつか他の形も買ってもらい、自室でこっそり小分け袋に詰め替え、お菓子の持ち込み禁止という園の規則も忘れて、でも何となく母には秘密にして登園鞄の奥に入れた当時の行動力は、衝動としか言いようがない。
帰りの時間まで自分の鞄に隠し、隙を見て海斐の鞄に移して『お家に帰ったら見てね』と内緒で打ち明ける作戦を立て、喜んでくれるかなぁ、びっくりするかなぁ、なんて呑気にワクワクしながらその日は眠りについた。
最初のコメントを投稿しよう!