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「あれ、みっちーだったのぉ……」
しかし、まじかぁ……と分かりやすくがっかりする姿を見ていたら、何か逆にムカついて来た。こっちだって、騙したくて騙したんじゃない。言えるならとっくに言ってた。
「悪かったな。大胆だけど可愛い女の子じゃなくて」
「大胆さはむしろ増したかなって感じだけどさぁ……」
「どーせ他人の鞄に名無しで食い物突っ込むガサツだよ」
「バッカ! お菓子とかおもちゃ持って来ちゃった時のりっちゃん先生超怖ぇーんだぞ! なのに、俺の為にチョコ持って来てくれてさ、しかも俺の事全部知ってるみたい好きなのばっか入れてくれて。けど『名乗らないぜ、探してみな』っつー格好良さ! 惚れるだろ!」
惚れ……てるのか、それは。恋愛感情っていうより憧れだろ。そういや、海斐は戦隊ヒーローだとブラックが好きなタイプだった。
「ん〜……みっちーかぁ……」
遠慮なく上から下まで眺める視線が、逃避しかけた俺の頭を現実に戻す。やめろよ、と俯いたものの、更に海斐が近付いた気配を感じて嫌でも顔が熱くなった。
カミングアウトした直後でそんな風に見る奴が居るか馬鹿。勘違いするぞ馬鹿。
どんどん下がる視界の隅で、さらりとキャラメル色が揺れる。
「ナシ寄りの……アリ?」
「…………どっちだよ」
「えー、分かんないよ。分かんないからさぁ、チョコちょうだい?」
「は?」
「今のみっちーだったら何くれんのか気になるじゃん!」
くしゃりと崩した顔からは、友人に向ける気軽さしか感じられない。それでも、ほんのりと期待が舞う中で見るずっと以上忘れられなかった笑顔は、躊躇いを吹っ飛ばすには十分な破壊力を持っていた。
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