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「ありがとう。私も大好きよ」
穏やかに受け止めたキャロルの唇が艶やかな光沢を放った。彼女は、美しい人だ。
「これは、同僚への“好き”でしょうか?」
「どうして?」
「キャロルはアンドロイドの製品化に携わっています。私は、製品そのものです。同一の企業で『より人間社会に利益をもたらすアンドロイドを作成する』という同一の目的を達成する為に従事している状況は、同僚が最も適切であると判断します」
「じゃあ、私とナナは同僚だと思う? 休憩中はよく一緒に食事をするし、仕事終わりのショッピングもする。この前の休みは、コンサートにも行ったわ」
ナナも職員だ。仕事を介して関わっている際は同僚に分類できる。では、そうでない時間は……?
「プライベートの際は、友人に“変化する”という認識で合っていますか?」
「変化、はちょっと違うかな。私の場合だけど。地続きって言うか、平行って言うか」
「同時に存在している?」
「呼び方はTPOで分けてるけど、一番大事なのは『私達は対等で、貴方の事をリスペクトしているわ』っていう気持ち。あとは、相手にそれをどう受け取って欲しいか、だと思っているわ」
だから私、よく友達って言っちゃうんだけどね。
最後の一言を内緒話しのように言い、ふふっ、と息をこぼした彼女はいつもより幼く見えて、先生の“わるだみ”の顔に少しだけ、本当に少しだけ、似ていると判別された。
「キャロル。この後、カフェテリアへは行きますか?」
「ん? そうね、お腹も空いてきたし」
「休憩の時間は勤務時間外になります。もし……もし、同席してプライベートな会話が出来れば、食物の摂取が出来ない私でも、キャロルと友達になれますか?」
彼女のふっさりとした睫毛が、飛び立つ鳥の羽とよく似た動きをする。
「ええ! もちろん!」
鼻先が薔薇の香りで埋まる。柔らかい皮膚と肉の感触は、長年の研究で漸く私達が持つに至った物と酷似していたけれど、私の顔に当たるより柔らかな脂肪は、私が持っていない物だった。
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